算数の図形が苦手な子への、家庭でできる工夫
2026年9月14日 更新📖 約9分で読めます
図形問題でつまずくのは「センスがない」からではありません。原因を切り分けて、家庭で手を動かしながら図形の感覚を育てる具体的な方法を紹介します。
「計算はできるのに、図形になると急に手が止まる」。この相談を受けたとき、いちばん多い家庭の対応は「よく見なさい」と「公式を覚えなさい」の二つです。ところがこの二つは、ほとんどの場合きき目がありません。「よく見なさい」は見るための手順を教えていませんし、「公式を覚えなさい」は、公式を当てはめる場所が見えていない子には使えない道具を増やすだけだからです。図形の力は生まれつきのセンスではなく、下から順に積み上がる4つの段でできています。この記事では、その段のどこが抜けているかを見つけ、抜けている段だけを家庭で手当てする方法をまとめます。
図形の苦手は「センス」ではなく、4つの段のどれかが抜けている
図形の問題を解くとき、子どもの頭の中では次の順番で作業が進んでいます。
- 第1段【名前】 ― 目の前の形を「長方形」「垂直」「対角線」といった言葉に結びつける。
- 第2段【動かす】 ― その形を頭の中で回す・裏返す・開く・切る。
- 第3段【書き込む】 ― 分かっている数や同じ長さの印を、図そのものに書き入れる。
- 第4段【式にする】 ― 書き込んだ図を見て、面積や角度の式に置きかえる。
大事なのは、これが順番だということです。第1段で「対角線」という言葉が図のどこを指すか分かっていない子は、第3段で対角線を引けません。引けなければ第4段の公式は永久に出番が来ません。にもかかわらず、家庭での教え方は第4段(公式)から始まりがちです。だから「何度教えても同じところで止まる」ことが起こります。
逆に言えば、抜けている段が1つ見つかれば、やることはとても少なくなります。図形は範囲が広く見えて、つまずきの入口は案外せまいのです。
どの段で止まっているか、1分ずつで切り分ける
教科書やドリルの図形のページを1つ開いて、上から順に4つだけ聞いてください。答えの正解・不正解ではなく、「すぐ答えられたか」「手が動いたか」を見ます。
- ①【名前】「この図の中で、直角になっているところを指で全部さして」 ― 指が止まる/自信なさそうなら第1段が抜けています。
- ②【動かす】「この形、右に1回コテンと倒したらどんな向きになる? 紙に描いてみて」 ― 描けない、実物を回さないと分からないなら第2段。
- ③【書き込む】問題を1問渡して、解かせずに30秒だけ見る。図に何も書き込まずに眺めているだけなら第3段。
- ④【式にする】「ここの面積を出すには、どの長さとどの長さが要る?」 ― 数はそろっているのに式が出てこないなら第4段。
①から順に見て、最初に引っかかったところが今の課題です。そこから先は今日は見なくてかまいません。①が×の子に④の練習をさせても、点にはつながらないからです。
なお、④だけが×という子は、じつは図形が苦手なのではなく「公式の使い分け」の問題です。この場合は形をさわる練習より、面積の公式を1つずつ図と並べて確認するほうが早く終わります。切り分けをすると、やらなくていいことも決まります。
第1段【名前】― 言葉と図がつながっていない
図形の文章題は、ほとんどが言葉でできています。「向かい合う辺が平行」「頂点から垂直に下ろした線」。この一つひとつが図のどこを指すか分からないと、問題文は暗号になります。
家庭でやることは、覚え直しではなく「指でさす」だけです。教科書の図を開いて、「辺はどれ」「頂点はどれ」「直角はどこ」と聞き、指でさしてもらいます。声に出して言えなくても、指がさせれば第1段は通過です。逆に、言えるのにさせない場合は、言葉だけを丸暗記していて中身が空なので、そこがまさに穴です。
とくに混ざりやすいのは「辺と面」「頂点と角」「垂直と平行」「直径と半径」の4組です。この4組だけを、身のまわりのもので言い直させてください。「机の面はどれ? じゃあ辺は?」で十分です。用語カードを作るより、実物を指させるほうが定着します。
第2段【動かす】― 頭の中で回せない・裏返せない
「同じ形なのに、向きが変わると別の形に見える」。これが第2段のつまずきです。正方形を45度かたむけると「ひし形」だと思ってしまう子は、図形が苦手なのではなく、回したあとの姿を予想する経験が足りていないだけです。
この段だけは、紙の上の練習より実物が圧倒的に早いです。家庭でできるものを挙げます。
- 折り紙を折ってから開く ― 「開いたらどんな線がついていると思う?」と先に予想させてから開く。予想→確認の順が大事で、開いてから見るだけでは力になりません。
- お菓子の空き箱を切って開く ― 展開図がいちばん苦手になりやすい単元ですが、自分で切った箱は忘れません。切る前に「開いたらどんな形になる?」と聞きます。
- 台所で野菜を切る ― きゅうりをななめに切ると切り口は円ではなく細長い形になる。立体の断面は、教科書の絵よりまな板のほうがよく分かります。
- 形をスマホで撮って回す ― 撮った写真を指で回転させるだけでも、「回しても同じ形」の感覚が入ります。
ここでのコツは、必ず「予想 → 実物で確認」の順にすることです。実物を見せるだけの体験は、その場は楽しくても図形の力にはなりません。頭の中で動かして、答え合わせをする。この往復が第2段の練習そのものです。
第3段【書き込む】― 図をきれいなまま眺めている
解けない子のプリントを見ると、図がまっさらなことがとても多いです。図形は、見るものではなく作業する場所です。まずこのルールを1つだけ渡してください。
「分かっている数は、全部図に書く」。 問題文に「たて5cm」と書いてあるなら、文中に線を引くのではなく図のその辺に5と書き込む。これだけで、頭の中に置いておく情報が減り、見える情報が増えます。
次の段階が補助線ですが、補助線は思いつきではなく3つの型しかありません。ここを型として教えると、急に手が動くようになります。
- 分ける ― 変な形を、知っている形(長方形・三角形)に切り分ける線。L字型の面積はこれで終わります。
- 足す ― 足りない部分を付け足して大きな長方形にし、あとで引く。「へこんだ図形」に効きます。
- そろえる ― 高さや垂直をそろえる線。三角形の高さが図に出ていないときに引きます。
「補助線を引きなさい」では動けませんが、「分ける・足す・そろえる、のどれでいけそう?」と聞けば子どもは選べます。選択肢が3つに減るからです。まちがった線を引いても消させないでください。引いてみて違うと分かるのも、立派に進んでいます。
第4段【式にする】― 公式は言えるのに、当てはめられない
ここまで来た子のつまずきは、たいてい「公式のどの文字が、図のどこか」が結びついていないことです。「三角形=底辺×高さ÷2」は言えても、かたむいた三角形で高さがどこか分からない、というパターンです。
手当てはシンプルで、公式を唱えさせる代わりに「底辺はどれ? 高さはどれ? 指でさして」と聞きます。さしてから式を書く、という順番を固定してください。さらに、高さは「底辺に垂直な長さ」であって、図の中で斜めになっている辺ではないこと。この1点を確認するだけで、台形・平行四辺形まで一気に通ります。
もう一つ効くのが単位の確認です。長さを足したのか、面積を出したのかが分からなくなっている子は、答えに cm と cm² のどちらを書くかで迷います。「これは長さ? 広さ?」と聞けば、式がおかしいときに自分で気づけます。
声かけを、段ごとの一言に変える
「よく見なさい」「ちゃんと考えて」は、どの段にも効きません。切り分けた段に合わせて、一言だけ渡してください。
- 【名前】「直角のところ、指でさしてみて」 ← ×「垂直って何だっけ?」
- 【動かす】「回したらどうなりそう? 先に言ってから、やってみよう」 ← ×「イメージしてごらん」
- 【書き込む】「分かってる数、全部図に書いてから考えよう」 ← ×「よく見なさい」
- 【式にする】「底辺と高さ、指でさして」 ← ×「公式は?」
右側(×)はどれも間違ったことは言っていませんが、子どもの手が動かない言い方です。左側はすべて、聞かれた瞬間に指か鉛筆が動きます。図形は手が動き始めた時点で半分進んでいます。
そして、ほめる場所を正解から動かしてください。「書き込めたね」「回したらどうなるか、先に言えたね」。第3段まで来ていれば、答えが合うのは時間の問題です。
よくある質問
Q. 図形だけ極端に苦手です。算数全体が苦手になりますか?
A. なりません。計算と図形は使っている力が別で、片方が苦手でも、もう片方が引きずられることはほとんどありません。むしろ「計算はできる」という事実は、第4段まで来たときに強みになります。
Q. 立体(展開図・体積)に入ってから急に崩れました。
A. 第2段が抜けたまま第4段まで来ていた可能性が高いです。平面では図をそのまま見れば済んだので気づかれず、立体で「頭の中で動かす」必要が出て表に出たかたちです。箱を1つ切って開くところからやり直すと、短期間で戻ります。
Q. 時間をかけて教えても、次の日には忘れています。
A. 忘れているのは手順ではなくきっかけであることが多いです。「まず分かってる数を図に書く」のように、最初の一手だけを毎回同じ言葉にして固定してください。図形は入口さえ同じなら、途中は子ども自身で進めます。
Q. 図が下手で、自分で描くとゆがみます。
A. 図形の点数と絵のうまさは関係ありません。ゆがんでも、長さと直角の印さえ合っていれば十分です。むしろ「きれいに描きなさい」と言うと、描くこと自体をやめてしまうので避けてください。
まとめ
図形の苦手は、才能ではなく4つの段のどれかが抜けているだけです。①名前がつながっているか、②頭の中で動かせるか、③図に書き込めるか、④式にできるか。この順に1分ずつ確かめて、最初に引っかかった段だけを手当てします。名前なら指でさす、動かすなら予想してから実物で確認する、書き込むなら「分ける・足す・そろえる」の3つの型、式にするなら底辺と高さを指でさしてから書く。どれも家庭にあるもので今日できます。声かけも段ごとに変えて、「よく見なさい」を「指でさしてみて」に置きかえるだけで、手が動き出します。
クラビオの「さくせんノート」は、お子さんがどの種類の図形問題でつまずいたのかを記録から見つけ、その子専用の復習を用意します。抜けている段だけを、無理なく一つずつ埋めていけます。
この記事がお役に立ったら
同じところでつまずいているお子さんのご家庭に、そのまま渡せます。
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