語彙が少ない子への、家庭でできる言葉の増やし方 ― 辞書引きより先にやること
2026年10月8日 更新📖 約9分で読めます
「言葉を知らないから問題文の意味が取れない」は国語だけの話ではありません。辞書引きやドリルの前に、家庭の会話と読書のなかで語彙を増やしていく順番と、覚えた言葉を使える言葉に変えるやり方、そして「知っている言葉」のはずなのに意味を取り違える多義語への気づかせ方までをまとめました。
「読めるのに解けない」の多くは、語彙で止まっている
音読はすらすらできる。漢字も書ける。それなのに国語のテストで点が取れない。この組み合わせで相談を受けたとき、ほとんどのケースで引っかかっているのは読解の技術ではなく言葉そのものの数です。
たとえば「筆者の主張をふまえて答えなさい」という設問文。ここで「ふまえて」の意味が入っていない子は、設問が読めていません。本文が読めていないのではなく、問題文が読めていないのです。同じことが算数の文章題(「あわせて」「残りは」「〜あたり」)でも、理科の記述(「変化」「関係」「原因」)でも起きます。語彙は国語という科目の中だけの話ではなく、全教科の土台にあたります。
そして語彙は、学年が上がるほど差が開きます。低学年のテストは知っている言葉だけで解けるように作られていますが、4年生あたりから設問も本文も、日常会話には出てこない言葉で書かれるようになるからです。「急に国語が下がった」の正体は、たいていここです。
いきなり辞書引きやドリルを増やしても伸びにくい理由
語彙を増やしたいと思ったとき、最初に手が伸びるのが、ことわざ・慣用句のドリルと、分からない言葉を辞書で引かせる練習です。どちらも悪くありませんが、これだけだと伸びが止まりやすい理由があります。
- 意味を読んでも、使い方が入らない:「意外=思っていたのとちがうこと」と読んで意味は分かっても、どんな場面で使う言葉かが入りません。使えない言葉は、テストで見たときに思い出せません。
- 知らない言葉を、自分では見つけられない:語彙が少ない子ほど「分からなかった言葉」を自覚できません。なんとなく読み飛ばしているので、辞書を引く対象がそもそも出てこないのです。
- 数が多すぎて記憶に残らない:一気に20語を覚えても、使う場がないまま1週間で流れます。
ですので順番としては、「会話と読書で出会う」→「意味を確かめる」→「一度使ってみる」の流れを作るのが先で、ドリルはその流れができたあとの仕上げに置くほうが効きます。
ステップ1:家庭の会話に、少しだけ難しい言葉を混ぜる
いちばん効果が大きく、費用も時間もかからないのがこれです。子ども向けに言い換えている言葉を、一段だけ大人の言い方に上げてから、その場で言い換える。
- 「すごい人が多いね」→「今日は混雑してるね。人がすごく多いってこと」
- 「へえ、そうなんだ」→「それは意外だね。思っていたのとちがった、ってこと」
- 「ちゃんと考えて選んだの?」→「比べて選んだ? どっちがいいか見くらべた、ってこと」
ポイントは、難しい言葉を言いっぱなしにせずすぐ横に平たい言い方を置くことです。これで「知らない言葉が出てきても、前後から意味を推測してよい」という感覚も一緒に育ちます。読解でいちばん要る力です。
1日に何十語も要りません。1日1語で十分です。それでも年間で300語を超え、学校のドリルで扱う量に引けを取りません。
ステップ2:読書は「量」より「知らない言葉に出会う密度」
本をたくさん読んでいるのに語彙が増えない、という相談もよくあります。原因は多くの場合、読んでいる本がすべて余裕で読める難度だからです。すらすら読める本は楽しいのですが、知らない言葉がほとんど出てこないので語彙は増えません。
目安として、1ページに知らない言葉が1〜2個ある本が、語彙を増やすにはちょうどよい難度です。0個だと増えず、5個以上だと読むこと自体が苦しくなって続きません。
- 好きなジャンルのまま、対象年齢を1つ上げる:ジャンルを変えると読まなくなります。上げるのは難度だけにします。
- 図鑑・科学読み物・伝記も語彙が濃い:物語が苦手な子は、こちらのほうが言葉が増えることがあります。
- 新聞の子ども向け面を週1回:ニュースの言葉(対策・影響・削減など)は、高学年の説明文とほぼ同じ語彙です。
読んでいる途中で意味を全部止めて聞く必要はありません。読み終わったあとに「さっき出てきた〇〇ってどういう意味だと思った?」と1つだけ聞くほうが、読む楽しさを壊さずに済みます。
知ってる言葉ほど、別の意味を疑う ― 多義語という落とし穴
語彙を増やす話をすると、頭に浮かぶのはいつも知らない言葉です。しかし実際に読解でつまずく原因には、もうひとつ別の型があります。それが多義語――子どもが「知ってる!」と自信を持って答える言葉が、実は2つ以上の意味を持っていて、本文ではそのうち覚えていない意味のほうで使われているケースです。
たとえば「甘い」。①お菓子の味が甘い ②しかり方などがきびしくない、ゆるい(「母の注意はあまかった」) ③見通しや考えが浅い、楽観的すぎる(「その計画はあまい」)。お菓子の意味しか知らない子は、別の意味で使われた文に出会うと、知っている言葉のはずなのに意味が取れず、設問の答えを読み違えます。
- 軽い(かるい):①重さが少ない(かばんが軽い) ②気持ちや態度が深刻でない、さらっとしている(「軽い気持ちで言った」) ③程度が小さい(「軽いかぜ」)。
- 取る(とる):①手でつかむ、持つ(「ペンを取る」) ②時間や休みを確保する(「休みを取る」) ③記録する、書き記す(「メモを取る」)。
どちらも、子どもが物の意味で先に覚え、それ以外の意味には一度も気づいていないという共通点があります。新しい語彙は「出会う→意味を確かめる→使う」の順で増やしますが、多義語はこの順番が通じません。子ども自身が「もう知っている」と思い込んでいるため、まず「ほかの意味もある?」と1回だけ聞いて気づかせることが、意味を教えるより先に要ります。
気づかせたあとも、一度に全部の意味を並べないでください。新しく渡す意味は1回に1つまでにします。「甘い」に3つの意味があることを一度に教えると、もとの「お菓子が甘い」まで混ざってしまう子がいます。
ステップ3:覚えた言葉を「使える言葉」に変える
語彙には2種類あります。見れば意味が分かるわかる語彙と、自分から言えるつかえる語彙です。テストで直接効くのは前者ですが、記憶に長く残るのは後者です。そして、つかえる語彙に変える方法は1つしかありません。一度でいいから、自分で使ってみることです。
- その日の出来事を1文で言い直す:「今日の休み時間を、さっき覚えた言葉を使って言ってみて」
- 短い作文の中で1語だけ使う:全文を難しくする必要はありません。1語で足ります。
- 言いまちがえても、その場で直しすぎない:使い方がずれていたら、否定せずに正しい例文を1つ横に言うだけにします。ここで指摘しすぎると、次から使わなくなります。
使ってみた言葉は、意味を10回読み返した言葉より確実に残ります。「思い出して口に出す」ことが、そのまま記憶の練習になっているからです。
知らない言葉をためる、家庭の置き場を1つ作る
やり方が決まっても、対象の言葉が集まらないと続きません。そこで「知らなかった言葉を書いておく場所」を家に1つだけ作ります。ノート1冊でも、冷蔵庫に貼った紙でもかまいません。
書くのは言葉・出会った場所・自分なりの意味の3つだけです。辞書の定義をそのまま写す必要はありません。「意外=思っていたのとちがう(お母さんが言ってた)」で十分で、むしろ自分の言葉に直したほうが残ります。
週末に、たまった中から3語だけ選んで使ってみる。これで1週間の流れが閉じます。全部を復習しようとすると必ず続かなくなるので、選ぶ数は少なくしてください。
ふり返るときに毎回どれを選ぶか迷う場合は、その週にやったことと「次にどこを直すか」を短く残しておくと、翌週の見直しが探しものになりません。大事なのは記録の形式ではなく、どこが弱いかが本人に見えていることです。
学年ごとの、ちょうどよい進め方
- 1〜2年生:会話で1日1語。読み聞かせを続ける。書いてためるのは、まだ要りません。
- 3〜4年生:知らない言葉の置き場を作る。ことわざ・慣用句は、この時期に遊びとして入れると入りやすくなります。
- 5〜6年生:説明文で出る抽象的な言葉(原因・影響・傾向・具体・共通)を重点的に。新聞の子ども向け面が効きます。
合いことば ―「知ってる言葉ほど、別の意味を疑う。」
語彙を増やす練習は、知らない言葉を追いかけるだけでは半分しか効きません。もう半分は、子どもがすでに知っていると思い込んでいる言葉に、別の意味が隠れていないかを疑うことです。合いことばは――「知ってる言葉ほど、別の意味を疑う。」。「甘い」「軽い」「取る」のような、日常でよく使うのに意味が複数ある言葉に出会ったら、まずこの合いことばを思い出してください。
よくある質問
1.「知っている言葉」なのに、なぜ読解で減点されるのですか?
多くの言葉には複数の意味があり、子どもは最初に覚えた1つの意味だけを「その言葉の意味」として固定してしまいます。文章の中でもう一つの意味で使われると、知っている言葉のはずなのに意味が取れず、設問の文意を読み違えてしまいます。
2.多義語と、まったく知らない新しい言葉は、同じ教え方でいいですか?
いいえ。新しい語彙は「出会う→意味を確かめる→使う」の順で増やしますが、多義語は子どもが"もう知っている"と思い込んでいるため、まず「ほかの意味もある?」と聞いて気づかせることが先です。いきなり意味を教えると、もとの意味との違いが頭に入りません。
3.家庭ではどの言葉から練習すればいいですか?
「甘い」「軽い」「取る」のように、日常会話に頻繁に出てきて、感情や程度を表す意味も持つ言葉から始めると気づきやすいです。食べ物の話をした流れで「ほかに甘いって使う場面ある?」と聞くだけで十分です。
4.一度に教える意味の数はどのくらいが適切ですか?
1つの言葉につき、新しく教える意味は1回に1つまでにしてください。複数の意味を一度に並べると、覚えていたはずの最初の意味まで混ざってしまうことがあります。
まとめ
語彙が少ない子には、ドリルを増やす前に出会う場を増やすところから始めてください。家庭の会話に1日1語だけ難しい言葉を混ぜて、すぐ横に平たい言い方を置く。本は好きなジャンルのまま難度だけを1つ上げ、1ページに知らない言葉が1〜2個ある状態を狙う。出会った言葉は家の置き場に3項目だけ書きため、週末に3語だけ使ってみる。そして、知っていると思っている言葉ほど、別の意味が隠れていないかを一度だけ疑ってみてください。「知ってる言葉ほど、別の意味を疑う。」――この一行さえ残っていれば、新しい言葉と、知っているはずの言葉の両方で、語彙は毎日少しずつ増えていきます。
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同じところでつまずいているお子さんのご家庭に、そのまま渡せます。
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