工業と貿易で社会が急に苦手になる子への、家庭でできる教え方 ― 地名を覚える前に「どこで作って、どこへ運ぶか」
2026年10月9日 更新📖 約9分で読めます
5年生の工業・貿易は、それまでの社会と違って目で見えないので、地名と数字の丸暗記になりがちです。製品を1つたどる読み方、工業地帯が海ぞいに並ぶ理由、中小工場と大工場の資料問題、加工貿易から現地生産への変化、つまずきやすい4つの型と家庭での1分練習をまとめました。
「工業」に入ったとたん、社会が分からなくなる
4年生までの社会は、スーパー、ごみ、水道、地図記号——行けば見えるものが題材でした。5年生の工業と貿易は、そこが変わります。工場の中は見えず、原料は海の向こうから来て、できた製品はまた別の場所へ運ばれていきます。見えないものを、資料の数字だけで追う——これが5年生でつまずく子の実際の困りごとです。
そこで多くの家庭が、工業地帯の名前と生産額を覚えさせにいきます。ところがテストで出るのは「京浜工業地帯はどこですか」よりも、グラフを見て、なぜそうなっているかを選ぶ問題のほうです。覚えた地名は、その問題には効きません。
手当ては、暗記を増やすことではなくものの流れをたどれるようにすることです。順番は次のとおりです。
まず、製品を1つだけたどる
いきなり日本全体を見せないでください。身のまわりの製品を1つ選んで、原料から手元までを1本の線でたどる——最初にやるのはこれだけです。
- ①なんでできている? 自動車なら鉄・プラスチック・ガラス・ゴム。ノートなら紙。フライパンなら金属。
- ②その原料はどこから来た? 鉄のもとになる鉄鉱石や石油は、ほとんどが輸入です。ここで輸入ということばが、はじめて意味を持ちます。
- ③どこで作った? 大きな工場か、部品を作る小さな工場か。自動車は1つの工場だけでは作れません。
- ④どうやって届いた? 船か、トラックか。重いものほど船で、道路や港の近くが有利になります。
この4つを1回たどると、あとで出てくる用語がぜんぶこの線の上に置けます。用語を先に、線をあとにすると入りません。線を先に、用語をあとにすると入ります。
工業地帯が海ぞいに並ぶのは、覚える話ではなく理由の話
地図で工業のさかんな地域を見ると、太平洋側の海ぞいに帯のように並んでいます。子どもはこれを形として覚えようとしますが、必要なのはなぜそこなのかのほうです。理由は3つに整理できます。
- ①原料が船で来るから、港のそばがいい。鉄鉱石も石油も輸入です。おろしてすぐ使える場所に工場を置くのがいちばん安くつきます。
- ②できた製品も、船で運び出したいから。行きも帰りも港が近いほど得をします。
- ③働く人と道路がそろっているから。大きな都市の近くには人がいて、高速道路もつながっています。
この3つを言えるようになると、地図の問題が「思い出す問題」から「考えて選ぶ問題」に変わります。逆に、内陸にも工業のさかんな地域があるのはなぜか——高速道路が通り、部品のように軽いものは船でなくトラックで運べるから——も、同じ3つで説明がつきます。ここまで来た子は、知らない地域が出ても答えを組み立てられます。
もうひとつの分け方:工業にも「軽い」ものと「重い・化学」がある
製品をたどる見方・海ぞいに並ぶ理由のほかに、工業にはもう1つ、昔からの分け方があります。自動車を作る機械工業、鉄を作る金属工業、プラスチックや薬品を作る化学工業、パンや乳製品を作る食料品工業、糸や布を作るせんい工業——種類は多く見えますが、これらは大きく2つの仲間にまとめられます。
- 軽工業:せんい工業・食料品工業など、軽くて身近な製品を作る仲間。
- 重化学工業:金属工業・機械工業・化学工業など、重い製品や薬品を作る仲間。
この2つの名前が意味を持つのは、割合が大きく入れかわった歴史があるからです。明治時代から戦前にかけては、せんい工業が中心の軽工業が日本の工業の主役でした。戦後になると金属・機械・化学の工場が急に増え、今では工業生産額(出荷額)のおよそ8割を重化学工業がしめるところまで入れかわっています。グラフで「機械」「金属」「化学」の割合がまとめて大きいのは、この3つが同じ重化学工業という1つの仲間だからです。
資料問題でいちばん出るのは、中小工場と大工場
工業の単元で最もよく出るグラフが、工場の数と、働く人の数と、生産額の3本を並べたものです。ここで読む中身は1行です。
工場の数は中小工場が圧倒的に多い。けれど生産額は大工場のほうが大きい。
子どもがまちがえるのは、たいてい「多い」がどの棒の話なのかを見ていないからです。手当ては簡単で、グラフを見せたら先に「この棒は、何を数えた棒?」と1回だけ聞くこと。数か、人か、お金か。ここさえ分ければ、答えはグラフに書いてあります。
意味のほうも一言そえてください。中小工場は、大工場に部品をおさめていることが多い——だから数が多いのに1つあたりは小さいのです。数字だけ覚えた子はここで詰まりますが、線をたどった子はすぐ分かります。
貿易は「加工貿易だった」で止めない
貿易のところで教科書がまず言うのは、日本は原料を輸入して製品を輸出する加工貿易で発展した、という話です。ここで止めてしまうと、いまのグラフと合わなくなります。今は次の2つが起きています。
- ①輸入するものが、原料だけではなくなった。衣類や機械などの製品そのものの輸入が大きく増えています。
- ②日本の会社が、海外に工場を建てて現地で作るようになった(現地生産)。売る国のそばで作れば運ぶ費用が下がり、その国の仕事も増えるからです。
②には、教科書が必ず触れるもう一方の面があります。国内の工場の仕事が減る産業の空洞化です。「海外で作ると得」と「国内の仕事が減る」は同じ1つのことの表と裏で、記述問題はここを聞いてきます。いいこと・わるいことを別々に覚えさせず、1つの動きの2つの面として渡してください。
つまずきやすい4つの型と、その手当て
- ①輸入と輸出が入れかわる:字を見て決めようとする型です。手当ては「出」は日本から出ていくほう、と1回だけ決めること。矢印を自分の手で描かせると、そのあと迷いません。
- ②地名は言えるのに、理由が言えない:いちばん多い型です。手当ては「なんでそこに工場があるの?」を毎回聞くこと。「港が近いから」で合格にします。3つの理由のどれか1つ言えれば十分です。
- ③グラフの「多い」を取りちがえる:手当ては前の章のとおり、棒が何を数えたものかを先に確かめること。
- ④昔の話と今の話が混ざる:加工貿易と現地生産を同時に覚えて混乱する型です。手当ては年代の言葉に丸をつけさせること。「かつては」「近年は」が問題文のどこにあるかを見つけられれば、答えの向きが決まります。
4つを一度に直さないでください。1回の見直しであつかうのは1つだけです。②から入ると、点の戻りがいちばん早く見えます。
家庭では、家にあるもの1つで足ります
特別な資料は要りません。家にある製品を1つ手に取るだけで練習になります。
- 裏の表示を一緒に見る。どこの国で作られたかを見て、地図で指す。それだけで輸入が実物になります。
- 「これ、なんでできてる?」と聞く。答えは合っていなくてかまいません。原料を考える向きさえ向けば目的は果たしています。
- 時間は1分。買い物のあとや、料理の途中で1つ。毎日でなく、週2〜3回で十分です。
車で出かけたときに、大きな工場や港が見えたら「あれ、なんで海のそばにあると思う?」と1回聞いてみてください。教科書の帯が、窓の外の景色とつながった子は、工業を忘れなくなります。
やり方は、短く残しておく
ものの流れをたどる見方は、工業だけのものではありません。理科の水のじゅんかん、家庭科の食べ物の産地、算数の割合のグラフ——どれも同じ読み方をします。今回うまくいった手順を一行だけ残しておくと、ほかの単元で困ったときに戻ってこられます。「原料 → 工場 → 運ぶ → 売る の順にたどる」「グラフは、何を数えた棒かを先に見る」——この程度で十分です。
ノートの端でも、ふりかえりのアプリでもかまいません。大事なのは、次に同じ形で落としたときに思い出せる形で残っていることです。
合いことば ―「むかしは軽く、いまは重い・化学。」
工業の種類がたくさん出てきて迷ったら、軽工業と重化学工業のどちらの仲間に入るかを考えてください。合いことばは——「むかしは軽く、いまは重い・化学。」。せんい工業(軽工業)が中心だった時代から、金属・機械・化学(重化学工業)が中心の時代に変わった、という1本の線でつながります。
よくある質問
1.軽工業と重化学工業は何がちがうのですか
せんい工業や食料品工業のように、原料も製品も比較的軽いものを扱うのが軽工業です。金属工業・機械工業・化学工業のように、重い製品や薬品を扱うのが重化学工業です。
2.今の日本は軽工業と重化学工業、どちらが多いですか
今の日本は、工業生産額(出荷額)のおよそ8割を重化学工業がしめていて、軽工業よりずっと多くなっています。
3.昔からずっと重化学工業が中心だったのですか
いいえ。明治時代から戦前にかけては、せんい工業が中心の軽工業が日本の工業の主役でした。戦後に金属・機械・化学の工場が急に増え、重化学工業が中心の今の形に変わりました。
4.グラフ問題でこの分け方はどう役立ちますか
工業の種類別グラフで「機械」「金属」「化学」の割合をまとめると全体の多くをしめているのは、この3つが同じ重化学工業という1つの仲間だからだと説明できます。
まとめ
工業と貿易でつまずくのは、内容が難しいからではなく、見えないものを数字だけで追わされているからです。まず身のまわりの製品を1つ、原料 → 工場 → 運ぶ → 手元、と線でたどる。工業地帯が海ぞいに並ぶのは、原料が船で来る・製品を船で出す・人と道路がそろっているの3つの理由から。工業の種類は多く見えても、軽工業と重化学工業の2つの仲間に分けられ、今は重化学工業が中心へと入れかわっています。資料問題では、棒が数か人かお金かを先に確かめる。貿易は加工貿易で止めず、製品輸入の増加と現地生産、その裏側の空洞化まで1つの動きとして渡す。そのうえで4つのつまずきを1回に1つずつ手当てしていきます。練習は家にある製品1つ、1分で足ります。「むかしは軽く、いまは重い・化学。」――この合いことばも、工業の種類に迷ったときの助けになります。
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同じところでつまずいているお子さんのご家庭に、そのまま渡せます。
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